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フェレットの副腎疾患について

副腎について

副腎は人を含めて動物たちは皆持っており、生命を維持するために欠かすことのできない重要な臓器となっています。しかしながら、その大きさはとても小さく、フェレットにおいては、正常では長径が3mmから4mmほどの大きさであるといわれており、やや平板状の形状をしています。位置は左右の腎臓のやや頭側に、各々脂肪に埋もれるようにして存在します。

副腎の役割は、ホルモンを分泌することであり、このことが生命維持に重要な役割を果たすことになっております。いわゆる副腎皮質ホルモンなどが主要なホルモンであり、このほか複数の重要なホルモンを分泌しております。それらの中に、通常ではごく少量の分泌ではありますが、男性ホルモンと女性ホルモンが含まれており、フェレットの場合には、このことが副腎腫瘍が発生した場合の、フェレット特有の症状がでる理由となっております。

副腎疾患発生のメカニズムについて

現在解っていることとしては、脳の下垂体から分泌される性腺刺激ホルモンが、副腎の性ホルモン分泌細胞を刺激し、副腎からの男性ホルモンおよび女性ホルモンの分泌を促しつつ、持続する副腎組織へのホルモン刺激は副腎の過形成を引き起こし、さらに、副腎皮質腺腫、そして副腎皮質腺癌の発生を引き起こすとされております。

副腎からの分泌を促された男性ホルモンと女性ホルモンは、メスの外陰部の腫脹を発生させるなどの、性ホルモン起因性の様々な副腎腫瘍の臨床症状をもたらします。

症状について

フェレットの副腎腫瘍の場合の症状は、そのほとんどが副腎腫瘍から分泌される性ホルモンによるものとなります。

メスの場合には、発毛の抑制による薄毛の進行、外陰部の腫脹、乳首の発赤、乳腺部の腫脹、外陰部からのオリモノの分泌、などが見られ、また、性的な行動が活発化したり、その結果としてやや攻撃的になったり、マーキング行動と思われますが、排尿回数が増加したりする場合もあります。また稀に、避妊手術時の子宮の切断部が性ホルモンの刺激によって大きく腫れ、内部に膿状の液体を貯留することもあります。この結果として尿道が圧迫され、排尿困難を呈する場合もあります。

オスの場合には、発毛の抑制による薄毛の進行、乳首の発赤、乳腺部の腫脹、そして、前立腺の腫脹による排尿困難や、前立腺の周囲に袋状の嚢胞が形成され、これらが大きくなることで尿道を圧迫することによる排尿困難、及び嚢胞内部に発生する膿状物が尿道に流れ込み、その結果として尿道が閉塞してしまう事態の発生も見られます。また、性的な行動が活発化することによってマーキング行動に類似する排尿回数の増加や、攻撃性の増加などが見られます。

さらに、女性ホルモン(エストロジェン)の骨髄への長期間の作用によって、骨髄の造血能力に障害が発生し、再生不良性の貧血が発生することもごく稀に見られます。

以上のようなホルモン分泌の異常に起因する諸症状以外には、副腎腫瘍自体が局所において著しく大型化した結果、副腎のすぐ傍に位置する後大静脈や後大動脈などを圧迫することによる循環不全が発生し、その結果として腹水が貯留することも見られます。さらに、大型化した副腎腫瘍が破裂することによって大量出血を生じ、急死する例も極めて稀に見られます。

治療について

外科的治療法

フェレットの副腎疾患が、副腎の腫瘍によるものである以上は、副腎腫瘍が確認された場合には、他の様々な腫瘍性疾患と同様に、早期の外科的な摘出が第一選択であることに間違いは無いと思います。副腎腫瘍の場合には抗癌剤などの投与によって腫瘍を退縮させることが実際上出来ないため、外科的摘出によって腫瘍を取り除かない限り、副腎疾患の完治はありえません。

一方で、外科的摘出に関しては、手術に対して適応できる状態かどうかの判断が重要となります。低血糖症や心疾患などのほかの疾患の合併症の有無についての診断、腫瘍化した副腎が左右どちらかだけの副腎のみであるかどうかの確認などが重要です。

他の合併症の存在に関しては、副腎腫瘍の増大速度の速さと、合併症が手術に与えるリスクの高さを評価し、最終的に手術に対する適否を判断します。また、発生している副腎腫瘍が、左右の副腎のうちのどちらか一方のみであることの確認も重要です。

私は、生命維持に重要な副腎機能の温存を考慮し、両側の副腎の摘出は実施していません。両側の副腎が腫瘍化している場合には、より大型化している側を摘出するという意見もありますが、私は、残存させることになる副腎も腫瘍化している場合には、その副腎の機能が保証できないと考えるため、結果として、摘出手術は実施しない判断を採ります。さらに、両側が腫瘍化していた場合において、片側は完全摘出を実施し、反対側は一部を残した部分摘出を実施するという意見もありますが、私は、残存させる副腎組織の機能の問題と、さらに、残存させた組織からの腫瘍の再発の可能性の高さを考慮し、この方法も採用しておりません。

エコー、レントゲン、血液検査などの各種臨床検査の結果、手術適応となった場合には、積極的に手術を実施する方向で検討します。

基本的手術手技

左側副腎が腫瘍化している場合には、副腎腫瘍周囲の脂肪組織を副腎腫瘍から剥離し、脂肪内部を副腎腫瘍に向かって走行している細血管をレーザーにより止血切断するか、糸により結紮止血し切断します。これら細血管は、副腎腫瘍への栄養血管である動脈であることが多いため、非常に細い血管であっても不用意に切断すると思わぬ出血を起こすことがあるため、慎重な止血処置が必要です。不用意な切断を行うと、切断端が脂肪組織中に引き込まれるため、切断後の止血処置に非常に手間がかかります。

副腎組織の周囲組織からの分離が終了した後、副腎組織の腹側を走行する副腎静脈を結紮した後に切断し、副腎腫瘍を摘出します。副腎静脈の後大静脈側は慎重な結紮が要求されます。

右側の副腎が腫瘍化している場合には、後大静脈と副腎組織が完全に癒着しているため、その摘出手術には相応の習熟した技術が要求されます。基本的には、左側副腎の場合と同じく、副腎腫瘍組織を周囲の脂肪組織から細血管を結紮切断しながら剥離分離し、さらに、極めて慎重に副腎腫瘍組織と後大静脈とを剥離する作業を進めます。そして、最後に後大静脈と副腎静脈との接続部位を糸による結紮もしくは血管クリップによる結紮により確実な止血を実施した後に切断します。

左側副腎の場合には、副腎腫瘍組織の頭側から分布している血管が発達している場合が多く、注意が必要です。また、右側副腎腫瘍の場合には、副腎腫瘍組織の尾側から分布している血管と左側から分布している血管が発達している場合が多く、特に後大静脈と並行して分布している血管は発見が難しく、術中の出血の原因となることがあります。また、左側から分布している血管は、やや太い血管が多く、十分な注意が必要です。

発展的手術手技

近年、非常に大型化した副腎腫瘍の症例が多く見られるようになってきました。この背景には、後述するリュープリンによる内科的治療の多用により、非常に増大するまで手術を受けないでいることが多いのではないかと思われますが、いずれにしましても、5mmから10mm程度の腫瘍の手術であれば、左右共に上述した基本的手術手技によってほとんどの場合において摘出が可能ですが、それ以上の場合には、様々な悪条件が発生することが多くなります。

左側副腎腫瘍は、一般的には「簡単に」摘出ができると言われておりますが(すくなくとも私は簡単であるとは思いませんが)、近年、左側副腎腫瘍組織が副腎静脈の内部を伝って後大静脈内部にまで侵入し、大きな腫瘍栓を形成し、血流を妨げている症例を診る機会が増加しております。この場合は、通常の手術手技では摘出は不可能であり、摘出に際しては、後大静脈の副腎腫瘍を挟んだ頭側と尾側、さらに右腎静脈の三か所を血管クリップではさんで一時的な血流遮断を実施し、後大静脈を切開し、血管内の副腎腫瘍組織を摘出することで完全な摘出を完了します。摘出後は切開した後大静脈壁を縫合し、クリップをはずして血流を再開します。

右側副腎腫瘍に関しては、一般的に摘出は困難である、または不可能であると言われておりますが、私は、10mm未満程度の副腎腫瘍である場合には極めて慎重に行う基本的な手術手技によって後大静脈から分離し摘出することは十分に可能であると思われます。しかしながら、それ以上に大型化した副腎腫瘍の場合には、後大静脈からの分離は不可能である場合が多くなり、基本的な手術手技では対応ができなくなります。

このような場合には、後大静脈結紮離断法と呼ばれる手技によって完全に副腎腫瘍を摘出します。この方法は、右側副腎腫瘍に接している後大静脈の頭側と尾側を止血クリップを用いて永久に血流を遮断し、副腎腫瘍側の後大静脈を切断し、後大静脈の副腎腫瘍との接合部位ごと副腎腫瘍を完全摘出します。この手術手技の結果、後大静脈は、右側副腎が存在していた部位で血流が完全に遮断されますが、後大静脈と並行して走行する他の静脈がバイパス血管として機能するため、私の経験上は、十分に安全性の高い手術手技であると認識しております。ほとんどの場合には、大型化した右側副腎腫瘍が後大静脈を圧迫しており、後大静脈の血流が著しく阻害されている場合が多く、また、左側と同様に副腎腫瘍組織が後大静脈内部に侵入し、大きな腫瘍栓を形成し、血流を妨げている場合もしばしば見られ、このような状態が、後大静脈結紮離断法の体への衝撃を結果として緩和しているのではないかとも思われます。

この手術手技に関しては、その危険性に対しての説が諸説あり、中には50%前後の死亡率があると主張する海外の獣医師もいますが、私のこれまでの数十例の経験では、十分に安全性の高い手技であると認識しております。

副腎腫瘍の手術に際しては、腫瘍の大きさにかかわらず、手術中に予期せぬ急変を認める場合があり、安全性をことさらに強調するつもりはありませんが、通常の手技では摘出不可能であると判断せざるを得ない大型化した副腎腫瘍症例に対しても、あきらめずに、ここに記述しました発展的な手術法を適応させることによって完全な摘出がなされれば、その後の生活の質は長期間にわたって著しく良好となります。

内科的治療法

外見上の副腎腫瘍の症状を呈して来院されたフェレットの大半においては、その時点での副腎腫瘍は5mm以下程度と小型である場合が多く、また、ほとんどの場合にはその腫瘍の大きさの変化も極めてゆっくりであるため、実際の治療の方向性としては、発見即手術による摘出になる症例は少なく、内科的治療法をまず実施し、定期的な検査で明らかな増大が見られた場合において、手術実施の決断を行うようにすることが多く見られます。現在使用が可能な内科的治療薬としては、リュープリンという商品名の薬剤が使用されます。この薬剤は、性腺刺激ホルモン放出ホルモンの類似化合物であり、これを投与されると副腎に刺激を与えている性腺刺激ホルモンの分泌が抑制され、結果として、副腎からの性ホルモンの分泌が抑制されます。これにより、性ホルモンに起因した副腎腫瘍による諸症状は、多くの場合に完全に回復します。この薬剤は、一度の投与で効果が約一か月間持続する利点も有しております。一方で、この薬剤は副腎腫瘍の大きさに関してはほとんど関与しないため、外見上の症状は改善しても、副腎腫瘍は存在し続けることを忘れてはいけません。一か月に一度の投与の日には、必ず副腎腫瘍自体の大きさを確認することが大切です。近年この確認を怠り、漫然とリュープリンを投与されている間に副腎腫瘍が著しく大型化した症例の転院を多く受け入れている状況があり、副腎腫瘍の大きさの変化に関する十分な注意が必要であると痛感しております。

また、人用のサプリメントとして入手可能なメラトニンもリュープリンと類似した作用により、副腎からの性ホルモンの分泌を抑制し、結果として副腎腫瘍による各種の臨床症状を軽減させることが知られています。しかしながら、当院ではリュープリンを使用しているため、積極的には選択しておりません。

まとめ

フェレットの副腎疾患は、中年期以降のフェレットに多発する疾患であり、性別による差は見られず、副腎腫瘍が原因で発生した性ホルモンの分泌異常が臨床症状を発生させます。

腫瘍性疾患であるため、外科的摘出が完治をもたらす唯一の治療法ですが、実際には発見時の大きさが5mm前後と小さい場合が多く、また、その増大速度も極めてゆっくりである場合が大半であるため、内科的治療をまずは選択してホルモン異常を治療しながら、副腎腫瘍の増大傾向や年齢、体調などを考慮し、副腎腫瘍摘出手術の時期を検討する場合が多くあります。

しかしながら、内科的治療を選択した場合には、副腎腫瘍の大きさに対する注意は非常に重要であり、近年著しく大型化した(3~4cm以上)副腎腫瘍の症例が転院してくる機会が多く見られ、リュープリンによって外見上の症状がほぼ消失したことに安心し、腫瘍の大きさに注意を払っていなかったと推察される例が多く見られます。

また、大型化した副腎腫瘍の症例が増えるにつれて、後大静脈内部に副腎腫瘍組織が侵入している症例を、右側左側両方において診る機会が増加しております。

当院ではこれらの症例に対しても、あきらめずに積極的に外科的摘出を実施し、完全な解決を図るべく、手術法を改良するなどの努力を重ねております。