フェレット情報ブログ

2013.10.28更新

中高齢期のフェレット(約4歳以上)には、血糖値が低下する疾患が多発する傾向が有ります。この病気はインスリノーマと呼ばれています。当院では、文献などに基づきフェレットの血糖値が70mg/dl未満の状態を病的な低血糖症と定義しています。

4〜5歳以上の中高齢期のフェレットは、健康体であっても日常的な活動性が若い頃よりも低下し、何時も寝てばかりいる場合も見られますが、低血糖症による活動性の低下であっても、外見上の区別はなかなか困難です。
中高齢期になってからの健康診断で、一般身体検査では異常が見られないフェレットの血液検査において低血糖症が発見される場合も多く見られます。この様な、無症状に見えるフェレットの血液検査において低血糖症が発見される機会の多さを考えると、潜在的に低血糖症を抱えている中高齢期のフェレットは非常に多くいるのではないかと思われます。

症状
フェレットの低血糖症の症状は、二つのグループに分けられます。
一つは血糖値の低下の中枢神経系への作用となります。中枢神経(脳や脊髄)はブドウ糖しかエネルギー源として利用できません。そのため、血液中の血糖値が一定水準以下に低下すると中枢神経組織の機能低下が発生します。これにより、意識混濁や意識消失が発生します。場合によっては中枢神経障害による痙攣発作が発生する場合も有ります。
意識混濁が極軽度な場合には、活動性の低下や後肢のふらつきとして発見される場合も多く見られます。
何となく近頃のフェレットの活動性が数ヶ月前と比較して低下しているように見えたり、特に後ろ足の踏ん張りが利かなくなっていたり、寝起きの初めの頃の歩き方がふらついていたりした場合には、老化現象ではなく低血糖による症状と考える方が良いと思います。

もう一つの症状は、低血糖に誘発された交感神経の異常な興奮によって引き起こされる症状です。血糖値が低下すると、体では血糖値を上昇させる仕組みが作動します。その引き金を引くのが自律神経の一つである交感神経となります。交感神経の興奮によって血糖値を上昇させる様々なメカニズムが作動し、血糖値を上昇させようと体は頑張ります。しかしながら、この興奮が過度に成り過ぎると、心拍数の異常な上昇をはじめ、呼吸数の異常な増加(呼吸速迫)、パッドなどを含めた全身の皮膚の発赤、ヨダレの増加、等々全身が異常な興奮状態となり、ぐったりとした虚脱状態となって発作様の症状を示す場合が有ります。

診察室で診療していると、フェレットの低血糖症には二つの不思議な特色が見られます。
一つは、極めて重度の低血糖状態であっても、殆ど症状が出ていない場合が見られることです。数字としては30mg/dl程度の重度の低血糖でも安定していることが見られます。
外見上健康に見えるフェレットの健康診断目的の血液検査でこのような重度の低血糖を発見することも珍しくはありません。また、低血糖に対する投薬治療を行っている中で、治療に対する反応が乏しくなった状態の結果としてこのような重度の低血糖状態が常態化する場合もありますが、そのような場合においても臨床症状は安定していることがしばしば見られます。このようなフェレットは、一日のうちで時間を空けて複数回血糖値を測定しても常時30mg/dl前後を記録します。本来であれば中枢神経症状が発生しても不思議ではない数字ですが、フェレット自身は何食わぬ顔で平然と生活しています。人でも無症候性低血糖(無自覚性低血糖)として記載されており、この場合には、明らかな低血糖症状を表に出さず、本人も自覚症状なしに生活している中で、突然意識喪失を来すとされております。フェレットでも同様の症状を発生するのかは確認できておりません。

もう一つは、自宅で突然激しい発作を発症して病院に担ぎ込まれたフェレットの血糖値は必ずしも重度の低血糖ではないことが多いという点です。多くの場合には50mg/dlから
60mg/dl前後のことが多いです。70mg/dl未満から低血糖症と定義していますので、数字的には軽度の低血糖症となりますが、自宅での発症時の症状は非常に激しい重度の症状であることが多いようです。もっとも、来院前に飼い主様が応急処置としてフェレットバイトや砂糖水などを投与している場合も多いので、必ずしも発症直後の血糖値と測定した血糖値が同じとは限りませんが、これらの多くは治療開始後も血糖値はそれほど下がらないことが多い傾向が有ります。

一番目にご紹介しました重度の低血糖にも関わらず平然と生活しているフェレットについては、人のインスリノーマの患者さんにも発生すると言われている、低血糖への中枢神経系の『慣れ』が発生することが理由とされています。先にも述べた無症候性低血糖であり、人では本人の自覚がないまま突然の意識喪失を来すため社会生活状の危険性が高いとされています。
二番目にご紹介しましたケースは、普段からそれほど低い血糖値でないインスリノーマに罹患しているフェレットが、急激な血糖値の低下(例えば、80~90mg/dlから50mg/dl前後まで下がるなど)が発生した場合に起きる臨床経過であると考えられます。恐らく交感神経の過剰な興奮が背景にあると考えられます。
このように考えれば、激しい臨床症状の割に来院時の血糖値がそれほど低くないことの説明がつきます。

その他、健康診断の際の血液検査で低血糖が発見された際のフェレット多くには、体重減少が見られます。飼い主様は食欲不振などの気になる症状は無いと思われていても、急激ではなくゆっくりとした体重減少が発生していることが多いようです。恐らく、活動性の低下によって食餌を食べる時間が短くなり、結果として一日のうちに食べるフードの量が若干少なくなってしまうことがゆっくりとした体重減少の原因ではないかと思われます。

発症原因
フェレットの低血糖症の事実上全ては、膵臓に発生したインスリノーマと呼ばれる腫瘍が原因となります。
膵臓に存在するβ細胞と呼ばれる細胞が腫瘍化したものがインスリノーマです。
膵臓のβ細胞は血糖値を低下させる作用のホルモンであるインスリンを生産する細胞です。そのため、腫瘍性に増殖したベーター細胞からは過剰なインスリンが生産されてしまいます。この過剰なインスリンが低血糖を引き起こします。
糖尿病の患者さんがインスリンの注射を誤って多く注射し過ぎた場合と似ていると思われます。しかも、この過剰な状態が持続的に発生しますので、低血糖状態が慢性化します。


治療
くらた動物病院においては、フェレットのインンスリノーマの治療に関しては内科的治療を優先し、インスリノーマを摘出する外科的治療は殆どの場合には行っていません。
内科的治療に関しては、ステロイド剤(プレドニゾロン)の内服を実施します。
プレドニゾロンには、肝臓においてブドウ糖を生産する糖新生作用を促す働きや、インスリンの効果を発揮しにくくさせる作用などによって、血糖値の上昇をもたらす効果があります。また、人のインスリノーマの治療にも用いられるジアゾキシドという薬も使用薬剤の候補と成ります。この薬はインスリンの産生そのものを抑制する働きがあります。
当院においては、文献に基づき、先ずはプレドニゾロンの投与から開始し、病状の推移に応じてジアゾキシドの併用を開始します。当院においての治療経験上からも、ジアゾキシドの作用には個体差が多く見られるため、安定した確実な効果を期待する必要性が高い低血糖の治療においては、ジアゾキシドよりもプレドニゾロンの方が確実性が高いと考えております。
外科的治療に関しては、膵臓に発生しているインスリノーマの切除を実施することになります。当院における手術経験では、多くの場合においては肉眼的に発見可能なインスリノーマは膵臓の表面に1mm~2mmの小さなドーム状の腫瘍として認められます。この腫瘍を周囲の正常な膵臓組織から剥離して摘出します。摘出時の腫瘍の形態は球状です。
この方法の場合には、肉眼的に発見可能な腫瘍を全て摘出しても、手術後において血糖値が正常化しない場合も多く見られます。特に、手術直後には血糖値が上昇しても、その後数日から数週間で再び血糖値が低下している場合が多く見られます。血糖値の正常化を目的とした手術としては、その治療成績は極めて悪いと思われます。
勿論、術後に長期間に渡って血糖値が正常値を示す症例もありますが、少数派であると考えます。
この原因は肉眼的に発見可能な腫瘍病巣以外にも多数の非常に微細な病巣が膵臓組織中に潜在している為であると考えられます。
文献的には膵臓の一部を潜在的に存在する腫瘍ごと広範囲に切除する方法などが紹介されておりますが、当院での実施例はありません。
以上の通りの理由によって、当院ではインスリノーマを外科的に摘出する手術は基本的に実施しておりません。
ただし、他の疾患が理由による開腹手術の際にインスリノーマが発見された際には、摘出を行っております。その際の治療成績は上記の通りです。


予後
インスリノーマが原因の低血糖は、持続的に増殖する腫瘍が原因であるため、原則的には病態は進行性の疾患です。経過時間とともに血糖値の低下傾向は強まります。
しかしながら、一方でインスリノーマに罹患したフェレットの予後は、個体によっての差が非常に多く認められる事も事実です。
どのフェレットも血糖値は時間経過とともに低下傾向を示しますが、数週間で急激な低下を示す場合も稀にある一方で、半年、1年経過しても殆ど同じ血糖値を示している場合も有ります。

大多数の場合においては、インスリノーマは投薬によって安定した良好な生活の質を維持することの出来る、長期間のケアーの必要な慢性疾患と捉えることが出来ると思います。

進行の度合いに応じてステロイドなどの投薬量の調整を随時行います。
その際に当院で重視していることとしては、あくまで臨床症状の状態に応じた投薬量の調整を重視するということです。
検査数値が低下を示していても、臨床症状が安定していれば投薬量を増量しない場合も多々有ります。また一方で数値上の変化は微小でも、明らかに臨床症状の悪化が見られた場合には、投薬量の増量を検討しています。
当院の方針としては、外見7割、数値3割での病状の評価と言えると思います。

投稿者: くらた動物病院